その街に親子がいた。
父親は四十歳くらい、子供は六歳か七歳であろう。
お互いに「ねえ」とか「なあ」とか漠然と呼びあっていて、
親子というよりも親友か兄弟のように見えた。
二人はいつか建てる筈の家について語っている。
その家は空想の中で幾たびとなく改築されながら、
次第に豪壮な邸宅となっていった……。
山本周五郎の名作「季節のない街」から数編を取り上げて
コミカルに再構築するシアホリ流悲喜劇の決定版。
上演に際して 松島寛和からごあいさつ
これは貧困にあえぐ人々の物語▼貧困になるとその日暮らしに精一杯になります。人生設計をじっくりと立てて計画的に生活をするなんてことはできません。そんな余裕がありません▼それにひきかえ、調子のいい時には余裕があります。余裕が人に余計なことを考えさせます。余裕があるから、つい変な買い物をしちゃうとか。また、余裕があるからこそおかしな話に惑わされて、挙句に騙されたりね。だから案外、貧困の暮らしが自然で、余裕のある豊かな暮らしがいびつ…なのかもしれません▼転落した人は必死。必死じゃないと生きていけないから。必死な人間は常に真剣。嘘をつく余裕がなくて本音になる。そうなると人間ってありのままの姿になる。あらゆるネガテイブな感情もありのまま出てくる。後悔、嫉妬、怒り、落胆……。そしてネガティブな感情の底で、小さな希望が見つかったりするのです。その希望は小さいけれど、とても強くて、何にも負けない光で我々の人生を照らしてくれる。だからどん底から立ち直った人間は強いのだ、と僕は思います▼なーんてね。全部想像だもん、そんなの、言っちゃアレだけど。本当にそんな希望なんてあんのかよ。ぼくが勝手に「ある」と思い込んでいるだけじゃないの?……いやー、あると思うよ。知らんけど。だって、そう思わないと、生きるのがつらすぎませんか?▼「人間おちめになったら、とことんまでおちるほうがいい、中途半端がいちばん悪いのだ」とは原作の中で語られる印象的なセリフのひとつです。ぼくはそこまでおちたことは……ないんじゃないかな……多分。これを読んでいる皆さんもないですよね。……ありますか? もし「ある」って方がいらしたら、あなたがおちきった時に見た景色ってどんなでしたか? 今もそこにいますか? そこで希望は見つかりましたか?▼とことんまでおちた先で見つかる希望って、それは一体どういうものなんでしょうね。ぜひ劇場で、みなさんと一緒に感じたいものです。もしかしたら思惑と違って、「あ、おれ、実はおちてたんだ…気がつかなかっただけで」なんてアブナイことに気がつくかもしれない、の、ですが。このお芝居は、希望って本当にあるのかを検証する、演劇による実験なのです。そしてぼくは、その希望を信じているのです。
「プールのある家」は3つの物語で構成されます。そしてその上演順は全ての公演で入れ替わります。
「プールのある家」は、山本周五郎の短編集「季節のない街」から3つの物語を取り上げました。
3つの物語の上演順は上演当日の開場後、開演の直前にくじ引きで決定します。劇団員もお客様も開演直前まで上演順がわかりません。
変わるのは上演順のみ。作中のセリフや演出は全く同じです。
上演順で客席からの見え方や印象が変わるかも……。そして、もしかすると演じる我々にも何らかの変化があるかもしれません。
これは喜劇か、それとも悲劇か。その日しか見られない「プールのある家」にご期待ください
日時
2019年5月18日(土)19時開演
19日(日)14時開演 19時開演
(開場は開演の30分前)
※ポストパフォーマンストーク 19日(日)14時の回終演後すぐに開催。
会場
蛸蔵(高知県高知市南金田28)
料金
【一般】前売り1,800円(当日2,000円) イープラス割1,500円
【学生】前売り1,300円(当日1,500円) イープラス割1,000円
チケット取り扱い
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